アメリカNY州農家製無殺菌乳チーズ応援の集い@CUNY, NYC
3月下旬のコーネル春休みNYC滞在中。ニューヨーク市立大学(CUNY)のエクステンション(公開講座とかの学外向けの活動)のイベントに出かけた。5番街のエンパイアステートビルのすぐ近くのCUNYの建物。外観はクラシックだが、一歩中にはいると超モダンでハイテク設備も整ってる。
Northeast Farmstead and Raw Milk Cheese: Back to the Future
訳すと。
「アメリカ東北部の農家製&職人手作りの無殺菌乳チーズ:バックツーザフューチャー
パネルディスカッションとガイド付き試食会」
学生のみなさん、Raw という単語は前回も出てきたのでもう分かりますね、生の乳、つまり加熱殺菌してないミルクで農家が作ったチーズを支援しようという会です。Slow Food NYCとの共催。
今日はちゃんとマジメにお勉強モードで、ざっと説明しておきますが、Raw Milkというのがポイントです。というかRaw Milkは農家製チーズの象徴といってもいい。チーズの味を最も大きく左右するのは、どんな条件かというと・・・・チーズ好きなたいていの人ならこう応えます。
「無殺菌かどうか」
そうです、生のミルクを使うかどうか。それがチーズの味を決定的に左右します。乳製品加工の文化がほとんどなかった日本人にはピンとこないところですが、それを上手く説明できるかやってみましょう。
フランスやイタリアの、いわゆる伝統的なブランドチーズは無殺菌乳製のものがたくさんあります(パスチャライズのやつもありますが)。なぜ無殺菌か?
無殺菌羊乳チーズを囓りながら(お行儀わるいけど歯形つけて丸かじり)この文章を書いていますが(先週この羊農場を訪問してきました詳細は後日)、ロックフォールのような羊ブルーチーズ、トロトロでおいしいー。で、室温でチーズがトロトロになるのを見てるとなんとなく実感できますが、チーズって、ようするにミルクを固めただけのものです。ミルクを固めただけのものをおいておくと、あとは微生物とかカビとか菌が勝手に働いてチーズの風味を作り出してくれるのです。
しぼりたての生のミルクには、自然にたくさんの菌が生きてます。悪い菌を殺して、乳酸菌などよい菌だけ生かす殺菌温度がパスチャライズでしたね。でもまあ、加熱しないことが菌にとっては一番居心地がいいのは当然です。そうやっていろんな菌が元気なまま熟成させることで、複雑な風味のチーズができあがります。
でもまあ、もし悪い菌が増殖してしまうと(そのリスクは大いにあり)、とうぜんそれを食べる人間にも悪さをして、食中毒とかが起きます。毎年フランスでは無殺菌乳チーズで食中毒の死人が出てます、普通に・・・。だから、無殺菌乳チーズはおいしいけど、細心の注意を払ってデリケートに扱われないといけない。
ということは、無殺菌乳チーズを作るには、もともとの原料のミルクの質が良い、ということが絶対の条件になります。ミルクの質がよい、ということはどういうことか分かりますか?
質のよいミルクとは・・・搾ったばかりのミルクとほとんど同義です。普通に清潔にしてミルクを搾れば、絞りたてのミルクには細菌が少ないのです(マニア向け注=乳房炎などは別として)。
しかし、ここからが大きな分かれ道なのですが・・・一般の酪農家なら、搾ったミルクを大きな冷蔵タンクに保管して、集配のタンク車が来るのを待ちます。集配が来るのは毎日ではなく数日に一度。その間に、いくら冷蔵されているといっても、ミルクの中では細菌が増殖していきます。そして集配のタンク車がやってきて、がたごと田舎道を揺られて、やっと乳業メーカーなどの工場に到着します。そのときにはやっぱり、細菌数は増えています。ので、ここまで来てしまったら、もちろん無殺菌のままではチーズにもできないし、ヨーグルトにもできないし、飲用乳には使えません。あまり細菌数が増えていると、パスチャライズもむりかもね。ということで、130度Cとかで超高温殺菌されるわけですね・・・・
ということで、農家が搾りたてのミルクを、すぐにその農場内で加工することには大きな意義があるのです。ミルクを加工するまでの時間が短ければ短いほど、そしてその移動距離が少なければ少ないほど、少ない細菌の状態の質のよいミルクを使うことができている。そういう質のよいミルクをつかって作られた無殺菌のチーズは、もちろんおいしい。
繰り返しますが、無殺菌乳製を標榜するということは、それだけの質のよいミルクで作っているということであり、それはすなわち搾ったところの近くですぐに加工している、要するに農家の自家製ということであり・・・おいしい、ということです。この意味で、Raw Milk 無殺菌乳は、農家製チーズの象徴と言えます。無殺菌ミルク製チーズは、農家の誇りであり、その「無殺菌」という点に、彼らのプライドが賭けられているのです。
今回は、そういうRaw Milkチーズを応援しようという趣旨のイベントでした。講釈が長くなりましたね。しかしもうちょっとだけ、参考のために付け加えておきましょう。
ミルクをどうやって固めてチーズにするか?
これを考えてみると、またまたチーズの意味が深く理解できます。
とりあえず、「カッテージチーズ」、研究室でそのうちみんなで作ってみましょう。間単に作れます。ミルクを少し温めて、そこにレモン汁とかお酢とか、直七汁(高知ローカルすみかん)とかを入れてかき混ぜていくと、ぼそぼそに固まっていきます。これがいわゆるカッテージチーズです。これからの季節、サラダとかにいいですねー。チーズケーキも焼けるよ。ああ、余談余談。
でも、一般的に、いわゆるチーズを作るときには、レンネットという酵素を使って固めます。ミルクを固めることのできるこの酵素は、どこから来るかというと・・・子牛の胃です。
なにそれ?? 状態だと思いますが、ここでまた前の話を思い出してみましょう。牛というのは草食動物でしたね。草を食うのが牛本来の姿です。で、草を食った母牛が、子牛を育てるために出すのがミルクです。われわれ人間は、その子牛を育てるためのミルクを横取りしてるわけですね。ああ、言葉が汚かったですね、もう少しお上品に言うと、母牛からミルクをお裾分けしてもらってるわけです。で、子牛はミルクを飲んで育ちます。哺乳類ですからね、人間も同じですね、赤ちゃんは母乳で育つ。ということは、子牛のうちは、草を食べてない。草を食べずに、ミルクを飲んで育つ子牛には、ミルクをちゃんと消化吸収できるような仕組みがあります。それがレンネットという酵素です。子牛のうちにミルクを飲んで育ち、オトナになると草を食って生きていくようになるのが牛です。そのレンネットで固めたミルクを、わたしたちはチーズと呼んで食べてるわけですね。同じ哺乳類ですから、人間も。
さてさて、やっと無殺菌乳製チーズのイベントに行きましょう。冒頭のパンフレットにあるように、まずはパネルディスカッションがありました。チーズを扱う小売業者や、チーズを実際に作っている農家など、何セットかに別れての順番に議論。現在のアメリカ国内の農家産チーズの状況などが説明されていきます。
アメリカのチーズ作りの歴史はそれなりに古いのですが、農家製チーズは一時期、非常に少なくなります。酪農の近代化・規模拡大などによって、酪農家はミルクを自分で加工せず、乳業メーカーに売るだけの状態になっていきます。しかし、90年代あたりから、農家製チーズ、リバイバルの時期を迎えました。酪農の近代化・規模拡大路線へのアンチテーゼという意味も多分にあるでしょう。
例えば、NY州の農家製チーズの組合(ギルド)は、2003年にできたばかりです。加盟農場数は16軒。そのホームページは、http://www.nycheese.org
最近になって、農家製チーズの動きが活発化してきた状況は、日本のチーズ界の動きとよく似ています。日本の酪農でも、ごく一部の農家がチーズなどの加工を始めたのが90年代、この十数年で日本各地でたくさんの農家製チーズが生まれています。
さて、パネルディスカッションの写真を一枚だけ。この4人のパネラーの左端は卸業者、右から2番目の女性は、教育ファームの活動をやってる農場から。右端の男性はそこそこしゃべれるチーズ職人でしたが、左から2番目のまだ若い職人は、すごくシャイで、人前でしゃべるのに慣れてないようで、自己紹介もそこそこに、卸の女性が「あとは彼のチーズを食べてみてください」というような助け船をだして、会場からは温かい拍手のあらし。やっぱり、アメリカでも、農家にはこんな人がいます。農家フェチにはたまりません。そういう人を好ましく思って、温かく見守る聴衆の雰囲気もよかったな。
ところで、会場の消費者から農家への質問で、こんなのが出ました。
「有機(organic)認証はとってるのか? なぜとらないのか?」
消費者にとっては、「良いモノ=有機(organic)」だという無条件の刷り込みがされています。良いモノなら、当然「有機」だろう、と。こういう質問の出てくる背景は日本と全く同じです。
農業のことをよく知らない消費者は、良いモノは当然、有機認証をとっているだろうと思いこんでいます。まあ、普通にスーパーでしか買い物しない人は、有機認証のマークがついているかどうかぐらいしか、商品を判断する情報がないですから、それを頼りに選んでいる普通の消費者にとっては、この質問は当然だと思います。
が、有機認証を取得するには、小さな農家には費用や手間の負担が大きい。有機認証の仕組みは、アメリカでは大規模な有機ビジネスのものになってきつつあります。小さな農家は、実際には有機の基準はクリアしてるが「認証」を受けてない、ゆえに「有機」と名のらない、名のれないというところが多数存在します。このあたり、アメリカも日本も同じ。
そして、こういう認証の仕組みに違和感を憶える農家がいるのも、同じです。後日、コーネル大の近くのファーマーズマーケットで、こんなコピーでジャガイモを売っている農家を見かけました。
「moreganic」というコピーわかりますか?
彼は、organicの認証を取ってないです。が、彼の農場はもちろんorganicの基準はクリアしているし、それ以上にエコだと自負しているのでしょう。
「おれんちは、オーガニック以上だ!」というメッセージです。
このおっちゃん、ほんとに言葉数がすくなくて、ぼそぼそと、でもしっかり地に足を着けてる人間だと存在感でよくわかる。百姓フェチとしてはたまらんなあ、こんなおっちゃん。
話はまた戻って、畜産の分野では、「有機」という基準は非常にあやしいものになっています。「有機」の飼料を海外からでも購入して与えれば、それで「有機」の基準はクリアできてしまう。無殺菌乳製チーズを作っているような農家が主張するのは、外から飼料を購入するのではなく、できるだけ自分の農場で飼料を自給し草で放牧して飼育することが、安全で安心な牛乳生産につながり、おいしいチーズにつながるということです。だから、彼らにとっては「有機」よりも「無殺菌乳」の方が大事で、それに誇りがあるわけです。草を食った牛のミルクはほんとに草の香りがして、それが無殺菌だとチーズにもよい風味として反映します。
さて、それではお待ちかね、チーズの試食会場へ。
エレベーターでビルの最上階にあがると、天井が全面ガラスで太陽の自然光がそそいで明るいホールでした。こういうスペースの作り方がさすがというか、ちょっとしたイベントや展示会に、この自然光のスペースはすごく重宝します。
さっそく各農場のブースをまわって、無殺菌乳チーズの味見・・・
本日の一番のお気に入りのチーズは、このおばちゃんのチーズでした。このおばちゃん、パネルディスカッションにも登場して、魔女のような笑い声で言いたい放題してる姿にしびれました。超カッコイイ。まじで惚れます、こんなおばちゃん。高知に、こんなおばちゃんいるよなあ、という感じでした。ちなみに彼女はNY州ではなくコネチカットだということ。
表面が黄色の中期熟成タイプですが、すごいコクのあるチーズでした。こりゃ無殺菌乳製まちがいなしです。おばちゃんのチーズが一番うまかったわ、と適当な英語で言うと、ポーズを取ってくれました。
そうそう、アメリカでは、無殺菌乳のチーズは違法ではないようですが、食中毒がニュースになるたびに、批判の矢面にたたされたりしています。そして無殺菌乳チーズは60日以上熟成が必須ということで、チーズのタイプも限られます。フレッシュタイプとか短期熟成タイプのチーズは、風味のバリエーションというだけでなく、農家の経営面ではかなり重要なのですが・・・。
あー、そうそう、日本では無殺菌乳製チーズはイリィーガルです。が、わたしはなぜか食べたことあります、日本のめちゃうまい無殺菌乳チーズ。秘密が知りたい人はわたしに美味いモノ食べさせてください。こっそり教えます。
今日の企画は、試食会にワインがなかったのだけが残念でしたが、あとは非常によくプロデュースされたイベントだと思いました。
この手の、レクチャー付き試食イベントをうちの大学でもぜひ開催したいな。農家とか漁師のおっちゃんとかおばちゃんに来てもらって、四国のうまいものを学び、味わう企画をぜひ実現しましょう。


Comments
はじめまして。
ブログを読ませていただきご連絡しています。
【NYブロガーズ】という、NY関連ブログのリンク集を開いており、お陰様で多くの方に登録して頂いております。
URL: http://www.iseeny.com/nyblog
NYをキーワードにするブログを集め、NYに関するリアルな情報が集まる場所にしていこうと思っています。よろしければ、このブログを当サイトに登録なさいませんか? 【NYブロガーズ】で、NYに住む人やNYが大好きな人に向けて、あなたの情報をぜひ公開してください。
登録や解除はいつでも自由に行っていただけます。
何かご質問等ございましたら、info@iseeny.com まで遠慮なくご連絡ください。リンク用のバナーも用意しておりますので、できればリンクもお願いします。
NYブロガーズやiseeny.comへのご意見なども、ぜひお寄せください。よりよい、使えるサイト目指してご意見募集中です。どうぞよろしくお願いします。
Posted by: NYブロガーズ | 2005.07.09 at 06:23 AM
はじめまして。アラスカよりHeidiと申します。なんと素晴らしいBLOGでしょう。大変、勉強になりました。アメリカでの食生活、有機農家の動きやスローフードのこと、どんな活動が進んでいるのか、求めていたものに出会えました。スローライフなアラスカにいると、なかなか中央の動きが掴めません。私のテーマは、食育です。これからも是非宜しくお願い致します。
Posted by: Heidi | 2005.12.08 at 02:22 PM